2024年12月3日火曜日

第4回:理論を実践するための根拠:顕微鏡観察

フロック形状の観察による実態把握

 間欠運転を成功させるには、まずフロックの状態を正確に把握することが必要不可欠です。観察を通じて得られるフロックの形状や色合いは、微生物の健康状態や環境条件を反映しています。以下の指標が特に重要です。
    • フロックの大きさ
       フロックが大きく凝集している場合、適切な栄養と酸素条件が維持されている可能性が高い。
    • 色合いの濃さ
      フロックが濃い色を呈する場合、微生物の活性が高く、栄養が十分供給されている状態を示す。
    • 形状の安定性
      不安定な形状や小型化が見られる場合、酸素供給過剰や栄養不足が原因と考えられる。

 曝気槽後半部の観察の重要性

 フロックは曝気槽後半部で特に栄養不足に陥りやすく、解体が進むリスクが高い。この部分での観察は、全体の処理状態を判断する上で重要な根拠となります。

 


観察手法の発見:効率化とデータ蓄積

 従来の観察法では、1サンプルの観察に熟練者でも1時間以上を要していました。私は汚泥検鏡アプリを活用し、観察時間を数分に短縮する新しい手法を導入しました。この効率化により、毎日の観察と画像データの蓄積が可能となり、フロックの形状を、現在と過去の状態を比較できる仕組みを確立しました。

 蓄積されたデータをポータルサイトで管理することで、フロック形状と出現生物の傾向に相関関係があることが明確に示されました。これにより、排水処理の状況を視覚的に理解することが可能となり、現場での観察精度が飛躍的に向上しました。


観察結果が導いた現場の自信

 毎日巡回し、処理状況と観察結果が結びつくことを理解した現場スタッフは、次第に大きな自信を持つようになりました。観察や測定が単なる作業ではなく、排水処理を最適化するための科学的な基盤であることを実感したのです。


次回予告:負荷を数値で示す鍵、微生物活性測定

 今回ご紹介した顕微鏡観察の手法が処理状況の可視化に貢献した一方で、負荷の具体的な把握には数値データが不可欠です。次回は、負荷状況を数値化する微生物活性測定に焦点を当て、その役割と結果が排水処理に与えた影響を詳しくお伝えします。



2024年12月2日月曜日

第3回 なぜ間欠運転が必要だったのか:そのプロセスと思考の記録

課題から見えた核心

私に課された課題は次の4つでした。
    1. 薬剤コストの削減
    2. 担当者教育
    3. 余剰汚泥の削減
    4. 乾燥汚泥の窒素比率向上
 これらの課題を達成するためには、まず「生物処理の正常化」が必要不可欠であると考えました。特に薬剤コスト削減は、三次処理(凝集沈殿処理工程)で多くの薬剤が使われていることが原因であり、その負担を軽減するには二次処理、つまり「生物処理」の段階で結果を出すことが鍵となりました。

「透視度」測定は無し?

 現場を視察すると、沈殿槽には常にSS(浮遊物質)が大量に浮遊しており、処理水の透明度が低い状態が確認できました。驚いたことに、現場では「透視度」を測定する習慣がありませんでした。技術部が所管していたころからの名残で、凝集沈殿処理で薬剤を投じて処理水を清澄化すれば問題ない、という考え方が透けて見えました。
 私は、「汚泥の解体」が原因でSSが浮上していると判断しました。この現象は、低負荷状態で過剰に酸素を供給し続けることで発生します。そのことを早期にF課長に理解してもらうため、科学的な証明が必要だと考えました。

科学的アプローチ:観察と測定

「汚泥の解体」を証明するために、以下の2つの手法を継続的に行いました。
顕微鏡観察
フロックの形状や色合いを観察し、栄養不足によるフロックの劣化(小型化や色の薄さ)を確認しました。
微生物活性測定
栄養がある場合には呼吸速度が速くなり、逆に栄養が不足すると遅くなるという理論を基に、曝気槽終端部(沈殿槽流入口付近)の「負荷」を測定しました。

  これらのデータをクラウドで管理し、顕微鏡画像と測定結果を日々確認しました。そして、F課長にこれらのデータを共有し、議論を重ねることで「生物処理は明らかに低負荷状態にある」という共通認識を築くことができました。


間欠運転の提案と成果

 汚泥の解体を防ぐには、酸素供給の過剰を避ける必要がありました。そこで私は「間欠運転」を提案しました。この提案は、排水処理現場に根強く残る「DO神話」(酸素を多く供給すれば問題は解決するという固定観念)を覆すものであり、大きな恐怖心を伴うものでした。
 しかし、観察と測定を徹底すれば問題が起きないことをF課長とH工場長に説明し、理解してもらうことができました。
 彼らはリスクを抑えながら少しずつ運用を開始し、測定や観察を通じて成果を確認しました。その結果、以下の改善が見られるようになりました。
    • SSの大幅な減少
    • 薬剤使用量の削減
    • 余剰汚泥の発生量減少と乾燥汚泥の窒素比率向上
 最終的には「70分停止、5分運転」という非常に効率的な間欠運転が可能となり、運用効率が劇的に向上しました。

フロックの変化がすべてを変えた

フロックの形状の変化は、間欠運転導入後の最大の成果の一つです。栄養不足だったフロックは質が向上し、形状が大きくなり、色合いも濃く変化しました。この変化によりコスト削減だけでなく、汚泥処理後に肥料として販売される乾燥汚泥の品質も向上し、良質な肥料として評価されるまでになりました。

2019年 コンサル開始前 最終曝気槽出口付近

2024年11月 コンサル後 最終曝気槽出口付近

 




次回予告

 次回は、「なぜ間欠運転が必要なのか」をさらに深掘りし、その理論的な背景と現場でのデータを交えて解説します。読者の皆様にとっても、「間欠運転」の効果とその可能性を理解いただける内容となる予定です。お楽しみに!

2024年11月26日火曜日

第2回:現場改革と具体的な改善策

 新たなスタート:責任の移管と現場の変化

 2019年10月、私は再びコンサルタントとしてこのプロジェクトに関わることになりました。このとき、排水処理設備の責任は技術部門から生産部門へと移管され、新たにF係長が担当責任者に任命されました。

 F係長は排水処理の専門知識こそありませんでしたが、この重要な役割に前向きな意欲を示し、改善に向けて積極的に取り組みました。しかし、現場には技術部が所管していた頃からの古参従業員たちが存在しており、F係長が主導する体制への移行は簡単ではありませんでした。中でも最古参の社員は、私が指摘している「低負荷状態にある。」という認識に賛同することを良しとせず、これまでのやり方にこだわる姿勢を見せていました。F係長は、古参のこの社員の考え方に疑問を持ちながらも、維持管理法を変えることまではできないでいました。

 


具体的な改善策の導入

こうした状況の中、私はF係長を支援しながら、現場改革を進めるための具体的な改善策を導入しました。

 

  1. 顕微鏡観察アプリとクラウド連携の活用

    • コンサルを開始するのとほぼ同時期に、私は自作の「顕微鏡観察アプリ」を提供しました。このアプリは、顕微鏡で観察の結果を自動でグラフしビジュアル化、クラウドに保存する仕組みを備えています。
    • また、当初はカメラを貸与することで、顕微鏡観察データを効率的に収集しました。これらのデータは、Google Apps Scriptを使ってスプレッドシートに反映され、さらにLooker Studioで可視化できるようにしました。
    • F係長が測定・観察したこの結果や画像を私はこの仕組みを通じて毎日確認し、チャットや電話を通じて具体的なアドバイスを行いました。この対話を通じ、F係長と私の間で「生物処理は明らかに低負荷状態にある。」という共通認識を築くことができました。










               


  1. 送風配管の更新とターボブロワーの運用課題

    • 再契約時点で、現場では送風配管の大規模な更新が進行しており、ターボブロワーの導入が完了していました。ターボブロワーは基本的に間欠運転が可能ですが、頻度の問題があり、頻繁な停止運転は推奨されていませんでした。
    • この飲料メーカーの場合、1時間に1度の停止が必要でしたので、曝気槽全体の効率と機器故障のリスクを考慮し、配管に自動弁を取り付ける方法を提案しました。この自動弁により、一部の曝気槽に対してのみ間欠運転を行うことが可能となりました。
  2. H工場長との連携

    • F係長がこの重要な決断を下せた背景には、工場全体を統括するH工場長の存在が大きく影響しました。
    • H工場長は私のコンサルティングセッションにほぼ毎回参加し、F係長と理論や考え方を共有。間欠運転の導入を支える強力な後ろ盾となりました。


間欠運転導入の決定とその意義

 最古参の社員が最後まで反対する中、F係長が間欠運転を導入する決断を下したことは、その後の排水処理プロセスにおける大きな転換点となりました。この決定は、ターボブロワーの頻度の課題を解決する「配管に自動弁を取り付ける」という柔軟なアプローチによって実現されました。さらに、クラウドで管理されたデータに基づく分析と改善が、このプロセスの根拠を支える重要な役割を果たしました。

 

2024年11月23日土曜日

第1回 ある飲料メーカーでのコンサル業務の話

 

果実加工業界の裏で高まる排水処理のコスト問題

果実加工業界は、美味しい果実製品を消費者に届ける一方で、製造過程で大量の排水が発生します。この排水処理にかかるコストは見えにくい部分でありながら、経営に大きな影響を与えます。

某飲料メーカー㈱も例外ではありませんでした。


 同社では、排水処理に毎年高額なコストを要しており、経営陣とくに生産を統括するO常務はこの問題を大きな課題として認識していました。

 しかし、排水処理を長年管理してきた技術部門は、その自負からか「自分たちの運転に間違いはない」という姿勢を崩しませんでした。そのため、排水処理の現状を「高負荷運転」と誤認し、問題の本質に目を向けることができませんでした。この結果、改善活動は停滞したままとなりました。



コスト問題の原因を解明する調査開始

O常務の強い指示のもと、排水処理コストの根本原因を解明するための調査を開始するため、これまでこの工場と何の関係もなかった私が任命され、調査を開始することになりました。

この調査では、以下の2つの方法が用いられました:

  1. 顕微鏡観察
    活性汚泥のフロック(微生物の塊)の形成状態を観察し、処理プロセスの問題点を特定。

  2. 微生物活性測定
    微生物の呼吸速度を測定し、処理能力を定量的に評価。

 調査の結果、処理が「高負荷」ではなく、むしろ「低負荷」で運転されていることが判明しました。これは、多くの人が予想しなかった事実であり、当時の運転管理の盲点を浮き彫りにしました。





初期提案の拒否と再挑戦の道筋

 調査を基に改善提案が行われましたが、技術部門は「高負荷」という誤解を基にこれを拒否し、契約は途中で打ち切られてしまいました。

 しかし、経営陣の交代により、排水処理設備の責任が技術部門から生産部門へ移管され、新しい現場責任者が配置されました。この変革が新たなスタートのきっかけとなり、コンサルタントとの再契約が実現しました。


次回予告:現場改革と具体的な改善策

次回は、新たなスタートを切ったプロジェクトがどのように進化し、どのような具体的な改善策が導入されたかをご紹介します。排水処理における課題解決の道のりをお楽しみに!

2022年3月10日木曜日

こんなこともあるんです。

なんで?

なんでこんな施工になるかねー
近隣から「川が臭い。」という苦情が入ったと所在地の役所から調査に入られた企業様からの相談。
話を聞くとこれまでは苦情が入ったことはないという。
現地に行き放流先の河川をみると、、、ほとんど水流が無い川の水が貯まったところに、大量の泡があった。
近くで観察するとすぐに汚泥とわかった。
汚泥が河川へ?沈殿槽で汚泥が浮上しリークしたか?などと考えながら排水処理設備を調査に向かう。
排水処理設備の処理方式は回分式であった。
放流槽に貯まっている水の透視度は20度はあり十分美しい。
「なんか隠れて悪いもの流したか?」とオーナーを疑ってみたりもしたが、設備をしげしげと眺めていて気付いた。
排出系は画像のような弁の配置となっている。



これでは排出する時、最初に汚泥が放出されてしまう。







昨年の11月以降上流の工場が改修に入って川にほとんど水流は無くなったらしい。
以前から汚泥の流出はあったが、少しづつでも水流があって河川に汚泥が留まることが無かったのだろう。施工者も調査に来たらしいが気付かなかったらしい。
即改修となった。




2022年2月28日月曜日

コンクリートの溶出

 水産系加工工場から電話があった。

「調整槽の中の壁のコンクリートが剥がれているように見えるんですけど。どう思いますか?

」と水産加工工場の排水処理担当者から電話があった。



画像を送ってこられて観た時は「ウソ!」と思ったが、明らかにコンクリート面が剥がれ落ち、内部の骨材が見えているのが見えた。

コンクリートを溶出又は浸蝕する要因はなんだ?

①高アルカリ ②酸 ②高塩分濃度

担当者へ今の調整槽内汚水のpH測定を要求。
「pH7.5です。」
異常は無かった。

この測定結果は予想できた。これまで何度も測定しているからだ。
排水そのものが問題ではないことはわかる。

また、①高アルカリも考えにくい。

確かに、魚を扱うのでタンパク質(アミノ酸)は多く含まれる。
これは加水分解を受けて「アンモニア(NH3)」に変化する。アンモニアはpHを上昇させるが、コンクリートを浸食させるほどまでに上昇することはない。

画像をよく見てみると水に浸かっていない部分が崩落しているし、開口部の内側部分にも溶出部分がある。また、内部配管上部にもコンクリート塊と思われる残留物がある。




「これはガスかな?」と考えた。

以前問題となったポリ鉄の影響で既にこのようになっていた可能性もある。
その場合原因は、硫化水素ということになる。
これは危険だ。

いずれにせよ現場で状況を観察する必要がある。
「明日、10時までにそちらへ行きます。」
と連絡し「明日はまず原水槽も同じようになっているか見てみよう。」と思った。
原水槽も同様な状態にコンクリートがなっていたならそれはポリ鉄の影響などではないと断定が出来るから。

2022年2月16日水曜日

フロックの変化をみる -その②ー

フロック形状に注視した活性汚泥検鏡診断に心がけています。

この考え方は関与している客先にも共有しています。


活性汚泥の検鏡診断というと、


原生動物に代表される動く生物を観察することだと考える人が多いでしょう。


しかし、この生物群はフロックの形状によって出現する生物群が変わります。


また、処理対象の汚水の違いによって出現する生物数にも差があります。


出現する生物群の割合を比較して曝気槽の負荷を推測するのが検鏡診断の目的なのに生物数


自体が少ないと診断精度はドンとおちてしまいます。




そこで、従来の観察手法を踏まえつつ、フロック形状にも注視する観察法を弊社では確立しました。


この観察法では観察する頻度を増やす必要はありますが、診断を出すまでの時間を短縮することが出来ます。


その観察法がどのようなものかを少しご紹介します。


この後フロック画像が4枚登場します。曝気槽第1槽から第4槽までのものです。


皆さんは、そのフロックの違いや変化に気付くでしょうか?


では、ご覧ください。


曝気槽第1槽

曝気槽第2槽

曝気槽第3槽

曝気槽最終槽



気付かれたことはありましたか?

この活性汚泥中にはほとんど動く生物は出てきません。


このサンプルは過去1年間、毎月2回見続けている排水処理設備のものです。

その形状変化と現場担当者からの聞き取り、そして管理記録を合わせてみると排水処理全体の処理状態と運転管理法がみえてきます。



それでは、もう一度画像を観てみましょう。

それぞれの画像に解説を加えていきます。



第1槽

曝気槽第1槽

この槽のフロックはその数が多く、褐色の強いものが多いというのが特徴です。原水が投入される最初の槽ですから当然でしょう。投入される負荷にキッチリと反応しているとも言えます。



第2槽

曝気槽第2槽


この槽で見るべきところは白く見える部分、ここは水です。この部分が広ければフロックは良好に沈んでいます。褐色はやや弱くなっていますが、フロックが集積しています。これにより水の部分の面積が確保されています。




第3槽

曝気槽第3槽


打って変わってこの槽では水の部分はほとんど判りません。フロックの集積状態は解かれています。フロックの集積は数種のバクテリアが出す細胞内貯蔵物質ですからその分泌が無くなったと推測できます。前の槽であったものがこの槽で無くなったということで低負荷状態にあると推測できます。個々のフロックも砂粒状で小さい。



第4槽

曝気槽最終槽


フロックはほとんどが砂粒のように小さくなって、褐色も極めて弱くなっています。注目点は水の部分にある粒状のもの。これはピンポイントフロックと呼ばれるものでフロックが解体(=死滅)したものです。このフロックはすべて流出します。この槽でフロックは完全に解体状態にあり、ここは最終槽ですから過曝気状態にあるとも言えます。




検鏡後に現場の担当者に聞き取ったところ、


    ・処理水にSS(浮遊物質)が多い。


    ・第3槽のDO値 9.3mg/L、第4槽のDO値 10.5mg/Lで飽和状態。


    ・最終槽のMLSS濃度低下


        との情報。


私は、第3槽以降で低負荷となり過曝気状態にあることを報告しました。


また、今後の流入負荷の予測を尋ねたところ現状維持が見込まれているというので、

今後の対策として、


    ①曝気槽第3槽以降で曝気制限が有効。


    ②MLSS濃度が上昇しないよう注意。


    ③最終の曝気槽第4槽では状況によってはしばらく攪拌のみでも良いかもしれない。


とアドバイスしました。




動画も公開中です。
https://youtu.be/ukXZuqGMiq0

また、Facebookページでも日々の仕事や考えたことなどを投稿中です。

フロックの変化をみる ーその①ー

 一度に8カ所の活性汚泥を見るのは中々に大変なことですがこの検体は既に7年間、毎月2回検鏡し続けている硝化脱窒処理方式の排水処理設備のもので、特に食品系のものと比べると原生動物などの出現が非常に希薄です。なので、従来の生物診断法は適用することが難しいため、この施設独自の検鏡法を開発し診断を行っています。



当初は、4カ所の観察で行っていましたが精度に問題があったので私から提案し、8ヵ所見ることになりましたが、それは原生動物等の出現で推測する「負荷」がこのサンプルでは判らないためで、ならば曝気槽の1槽目から最終槽までの全フロックを見て「負荷」を推測しようと考えたためでした。



非常に特徴的なこの工場の活性汚泥は強固に大きなフロックを形成することはほぼありません。

強固で大きなフロック


 


 








2022年2月8日火曜日

曝気槽 酸欠 ラセン菌の出現

 高い薬剤を毎月数十万単位で使用していた、とある鶏肉加工工場。

根本的な解決法が無いものかと検討を重ね、いろんな業者を経由して弊社に相談があり現地で調査を実施しました。
現場で検鏡を行ってみると、非常に多くのラセン菌が出現していました。また、負荷の高い時に出現するⅠ群、Ⅱ群生物も多量に確認され酸欠が処理の不調と糸状性細菌を多く存在させる原因であることがわかりました。
最後に、二槽ある曝気槽の複数個所で活性汚泥の呼吸測定(測定の詳細は後日紹介)を実施し、結果をグラフ化しました。
このグラフの値は通過する負荷、つまりBODを表していますが、本来なら右下がりのグラフが描がかれるはずが歪なグラフが出来上がりました。
管理手法、設備上の問題がありそうです。



後日談、、、
私の経験上この現場のような鶏肉、食肉加工系の排水処理現場ではpH低下が起きますからpHが管理上の重要項目となっていて、DO測定が実施されているところが少ないという事実があります。測定しないのでDO計は所有していません。
この現場には排水処理設備を設計した業者が管理アドバイスに定期で入っていましたが、pH値管理を優先するあまり送風量を常に控えるようアドバイスをしていたようです。(酸化を抑制する目的と思われます。)また、驚いたことに返送汚泥配管が撤去されていてその理由を担当者に尋ねたところ「出入りの業者のアドバイスに従った。」との返答でした。俄かには信じ難い話でしたが処理不調の原因はすべて人為的なものだったのでした。これでは上手く処理が出来るはずありません。
私は上のような状況と事実をまとめ調査報告書を提出し、改善案を示しました。その後、返送汚泥管は再敷設されDOの管理が始まって、担当者も新たに排水処理経験者を採用され適切に維持管理が行われるようになりました。当然、使用していた高額の製剤も未使用となっています。



2021年7月20日火曜日

排水処理現場もIoT 

 私が今、もっとも多くの時間を使って取り組んでいるのがIoTです。

今はこんなことに取り組んでいます。



製造現場ではお馴染みのPLCにPUSHLOGというIoT機器を接続してデータをクラウドに投げるようにしています。

そして、それを自作したスマホ用アプリで確認できるようにしています。




どこにいても、いつでも気になるセンサーなどのデータを確認することが出来る。

少しでも便利な仕組みを安価に作っていく。

そのような取り組みを行っています。




2021年3月31日水曜日

フロック形状を維持するということについて

見つかると「処理状態は良いといわれる」生物がいる


「この生物がいればOK。」といわれている生物が数種類います。
やはり一番有名なのは「ボルティセラ」でしょう。

 ボルティセラ


ボルティセラ属はフロックに固着し、頭頂部の繊毛で自らに向けて旋回流を起こし、周辺にあるピンポイントフロックを摂食します。このボルティセラと同様の生活スタイルを持つ「エピスティルス」「カルケシウム」などが優占化すると、沈殿槽で分離した上澄水の透視度は1mを超えるほどになります。

でも、誤解してはいけないのは、
「ボルティセラ」がいるから処理が良好になるのでは無いということです。

上にも書きましたが、ボルティセラはフロックに固着して生活します。
なので、フロック径が小さくなってしまうと固着できなくなり、頭頂部を外し(テロトロチ)遊泳し、その後いなくなってしまいます。



フロックの大きさや形状によって
        出現する原生動物は遷移する

活性汚泥の支配的な生物はバクテリアです。

このバクテリアを摂食して生活しているのがボルティセラ、アスピディスカなどの原生動物、微小動物などの生物です。

バクテリアを摂食して生きている原生動物等はフロックの形状によって出現する生物群が変わります。

フロックがバラバラ状のときには小さくて、浮遊しているフロックを摂食するのに有利な体形が小さく、素早く遊泳し続ける原生動物が。 
 
負荷が落ち着いて、フロックが成長して大きくなってくるとそれに合わせて、体型の大きな遊泳性のものが増えてきます。

更に、フロックが安定的に大きさを維持するようになるとフロックを匍匐するような生物が、また時を同じくしてフロックに固着するような生物が増えてきます。 

つまり、良好期に出現する生物を優占化させるにはフロックの形状を維持せねばなりません。





フロックの大きさを変化させる要因

フロックの形状は何によって変化するのか?

フロックとは?
バクテリアの集合体のことを言います。

バクテリアは単細胞の生物ですが、自然界では塊を作って生活をします。
活性汚泥のように浮遊するものは「フロック」として集団化。 
またあるものは、川底の石や水生植物の根に付着する「バイオフィルム」として。
基本的に集団化して生活しています。

 例えば、排水処理の生物処理に生息する活性汚泥中には300を超える種類のバクテリアが生息ていると言われています。
これらの種類の違うバクテリアが集団化するのは、300数種類の中の数種のバクテリアが粘着性物質を分泌することによります。
 
 排水処理に携わっている者にとって、厄介なのはこの粘着物質はずっと出続けるものではないということで、粘着物質が無くなったフロックはバラバラ状になり沈降性を悪化させます。




では、なぜフロックは集団化(フロック化)するのでしょう。

これは理由がハッキリしています。
フロックが集団化(フロック化)する時、活性汚泥の沈降性は良くなり処理水は清澄になります。
処理水が清澄である時、その水の中のBODは限りなく低くなるのですから、フロック化するのはBODが非常に少なくなった時であるといえます。

では、「曝気槽内のBODが低ければ、低いほど良い。」のかというと、それは違っていて、
BODが極端に低くなり過ぎると、エサにありつけなかったバクテリアは餓死(内生呼吸または自己酸化)します。粘着物質を分泌されなくなってフロックはバラバラになります。(=解体)逆に、BODが高めになればバクテリアは塊を作る必要がなくなります。(=分散)

長~い文章になってしまいましたが、結局ボルティセラなど良好期に現れる原生動物等を活性汚泥中にたくさん保持したいのならばフロック化を維持しなければならず、フロック化を維持するためには特に曝気槽終端部での負荷をちょうど良い少なさ加減にせねばならないということになります。

この辺りの負荷を読むのが排水処理の一番難しいところです。


排水処理にお困りの際には是非ご相談ください。

フェイスブックページもよろしく。



2021年3月27日土曜日

そのトラブル、高負荷か? 低負荷か?

有機系の排水処理は生き物が行ないます。

生き物が行うので、様々な環境要因によっていろいろな現象が発生します。




 例えば、発泡現象。

右の写真のように真っ白な石鹸状の泡が発生することがあります。   

この泡はそれまでより突然に高負荷になった場合に発生する特徴的な泡です。





左の画像も高負荷時のトラブル
汚泥計量器ですが曝気槽での負荷を保ったまま沈殿槽に汚泥が流入したため返送汚泥が泡立ってしまったのです。










右の画像も高負荷時のトラブル。
その時点の負荷を大きく超えて流入する負荷に生き物たちはついて行けません。
結果、未処理のまま有機物が残り上澄水を着色させてしまいます。当然、このまま放流させると付近の水域を汚染させることになってしまいます。








トラブルが起こるのは高負荷時だけではありません。  
             

左の画像、問題がないように見えるかもしれません。
透明度が無く、よく見ると細かな粒子が浮上しているのがわかる状態です。
このような時、ろ紙(5C)にこの上澄水を通し、上澄水の透明度が増した場合、原因はSSです。
この場合のSSの発生原因は、低負荷による「フロックの解体」がその原因です。












また、低負荷時には曝気槽に下画像のような泡が発生することがあります。
低負荷とは、曝気槽内に生息している微生物量に対して入ってくるエサ量(BOD量)が少ない状態です。つまり、すべてのバクテリアにエサが行き渡らない状態です。



エサが摂取できないバクテリアは死んでしまいます。

バクテリアの細胞は、タンパク質や多糖類で出来ていますから常に曝気され強力に撹拌が行われている生物処理槽では、溶質したバクテリア由来の細胞質がメレンゲの如く泡となってしまうのです。

 排水処理の生物処理は生き物が行う処理ですから、その時々の生物処理槽の環境状態(水温やPH)と微生物量、そしてエサの量(BOD量)などによって様々な現象が生物処理槽や沈殿槽に表れるのです。これが異常現象が発生する理由です。

 我々、排水処理の維持管理に携わる人間は、この現象が現れる前に何らかの手を打って、その異常現象を抑えるのが仕事になります。いかにして、生物処理槽の負荷状態が「高負荷状態に近づいているのか、低負荷状態に近づいているのか」を読むことが維持管理の成否を決めることになります。



排水処理にお困りの際には是非ご相談ください。

2021年3月23日火曜日

活性汚泥検鏡診断

排水処理、有機系排水処理のもっとも重要な処理は生物処理です。

あまり、排水処理を知らない方は微生物と言うと「特別な」生き物を思い浮かべるようですが、そんなことはまったく無く自然に発生する微生物によって処理は行われています。
自然の自浄作用を人為的に高速化させたものが排水処理装置なのです。


 ボルティセラ属


排水処理の生物処理の中でもっともポピュラーな処理法は「活性汚泥法」ですが、その他にも

・ 担体流動法
・ 生物膜法

など微生物をどのような場所、物に定着させるかで呼び名が違う処理法がありますが、どの処理法も自然発生的に繁殖する微生物を利用しているのは一緒です。


生物処理に生息する微生物等は塊(フロック)をつくって生活します。

この塊(フロック)の大きさ(径)が大きければ、大きいほど汚泥の沈降性は上がり、この時に処理水はもっとも美しくなります。
しかし、このフロックは様々な環境要因によりその形状や大きさを変化させます。

フロックの変化は、生物処理槽の負荷状態によります。
生物処理槽の負荷が高い場合(高負荷)と負荷が低い時(低負荷)に、フロックはフロック化を解きバラバラ状になるのですが、外観を見るだけではどちらの状態にあるのかの判断は困難です。そのような状況判断をする際に行われるのが「活性汚泥検鏡診断」です。

検鏡診断法は数十年前から排水処理の現場では行われてきており、これまでの知見の集積により出現する微生物群の区分けすることにより生物処理槽の負荷状態を判定することが出来ます。
負荷状態が判定できれば、どのような操作を行うべきかの判断をすることが出来るようになりますから非常に便利です。

検鏡診断で観るのは、顕微鏡下に現れる原生動物や微小動物です。
原生動物・微小動物は、バクテリアの集合体=フロックを餌として生活をしています。もっとも重要なのは直接BODを摂取し、無害化してくれるバクテリアですが、バクテリアは大きさ1um以下で直接観察は難しい。
なので負荷の高低で変化するフロックを摂食する、光学顕微鏡で観察可能な原生動物等を観て聞接的にバクテリアの状態を推測します。






活性汚泥検鏡診断は基本的には現地で実施するのが一番です。
しかし、下記の条件が満たせれば宅配によって受付、実施することができます。
          
          1.採取した後すぐに10度以下で保管。
          2.採取した当日、冷蔵便で配送。
          3.2日後迄に到着

処理状況の判断にお困りなら一度御相談下さい。
メール、電話、ビデオ通話どの方法でも対応可能です。
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