2024年12月2日月曜日

第3回 なぜ間欠運転が必要だったのか:そのプロセスと思考の記録

課題から見えた核心

私に課された課題は次の4つでした。
    1. 薬剤コストの削減
    2. 担当者教育
    3. 余剰汚泥の削減
    4. 乾燥汚泥の窒素比率向上
 これらの課題を達成するためには、まず「生物処理の正常化」が必要不可欠であると考えました。特に薬剤コスト削減は、三次処理(凝集沈殿処理工程)で多くの薬剤が使われていることが原因であり、その負担を軽減するには二次処理、つまり「生物処理」の段階で結果を出すことが鍵となりました。

「透視度」測定は無し?

 現場を視察すると、沈殿槽には常にSS(浮遊物質)が大量に浮遊しており、処理水の透明度が低い状態が確認できました。驚いたことに、現場では「透視度」を測定する習慣がありませんでした。技術部が所管していたころからの名残で、凝集沈殿処理で薬剤を投じて処理水を清澄化すれば問題ない、という考え方が透けて見えました。
 私は、「汚泥の解体」が原因でSSが浮上していると判断しました。この現象は、低負荷状態で過剰に酸素を供給し続けることで発生します。そのことを早期にF課長に理解してもらうため、科学的な証明が必要だと考えました。

科学的アプローチ:観察と測定

「汚泥の解体」を証明するために、以下の2つの手法を継続的に行いました。
顕微鏡観察
フロックの形状や色合いを観察し、栄養不足によるフロックの劣化(小型化や色の薄さ)を確認しました。
微生物活性測定
栄養がある場合には呼吸速度が速くなり、逆に栄養が不足すると遅くなるという理論を基に、曝気槽終端部(沈殿槽流入口付近)の「負荷」を測定しました。

  これらのデータをクラウドで管理し、顕微鏡画像と測定結果を日々確認しました。そして、F課長にこれらのデータを共有し、議論を重ねることで「生物処理は明らかに低負荷状態にある」という共通認識を築くことができました。


間欠運転の提案と成果

 汚泥の解体を防ぐには、酸素供給の過剰を避ける必要がありました。そこで私は「間欠運転」を提案しました。この提案は、排水処理現場に根強く残る「DO神話」(酸素を多く供給すれば問題は解決するという固定観念)を覆すものであり、大きな恐怖心を伴うものでした。
 しかし、観察と測定を徹底すれば問題が起きないことをF課長とH工場長に説明し、理解してもらうことができました。
 彼らはリスクを抑えながら少しずつ運用を開始し、測定や観察を通じて成果を確認しました。その結果、以下の改善が見られるようになりました。
    • SSの大幅な減少
    • 薬剤使用量の削減
    • 余剰汚泥の発生量減少と乾燥汚泥の窒素比率向上
 最終的には「70分停止、5分運転」という非常に効率的な間欠運転が可能となり、運用効率が劇的に向上しました。

フロックの変化がすべてを変えた

フロックの形状の変化は、間欠運転導入後の最大の成果の一つです。栄養不足だったフロックは質が向上し、形状が大きくなり、色合いも濃く変化しました。この変化によりコスト削減だけでなく、汚泥処理後に肥料として販売される乾燥汚泥の品質も向上し、良質な肥料として評価されるまでになりました。

2019年 コンサル開始前 最終曝気槽出口付近

2024年11月 コンサル後 最終曝気槽出口付近

 




次回予告

 次回は、「なぜ間欠運転が必要なのか」をさらに深掘りし、その理論的な背景と現場でのデータを交えて解説します。読者の皆様にとっても、「間欠運転」の効果とその可能性を理解いただける内容となる予定です。お楽しみに!

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