2024年12月3日火曜日

第4回:理論を実践するための根拠:顕微鏡観察

フロック形状の観察による実態把握

 間欠運転を成功させるには、まずフロックの状態を正確に把握することが必要不可欠です。観察を通じて得られるフロックの形状や色合いは、微生物の健康状態や環境条件を反映しています。以下の指標が特に重要です。
    • フロックの大きさ
       フロックが大きく凝集している場合、適切な栄養と酸素条件が維持されている可能性が高い。
    • 色合いの濃さ
      フロックが濃い色を呈する場合、微生物の活性が高く、栄養が十分供給されている状態を示す。
    • 形状の安定性
      不安定な形状や小型化が見られる場合、酸素供給過剰や栄養不足が原因と考えられる。

 曝気槽後半部の観察の重要性

 フロックは曝気槽後半部で特に栄養不足に陥りやすく、解体が進むリスクが高い。この部分での観察は、全体の処理状態を判断する上で重要な根拠となります。

 


観察手法の発見:効率化とデータ蓄積

 従来の観察法では、1サンプルの観察に熟練者でも1時間以上を要していました。私は汚泥検鏡アプリを活用し、観察時間を数分に短縮する新しい手法を導入しました。この効率化により、毎日の観察と画像データの蓄積が可能となり、フロックの形状を、現在と過去の状態を比較できる仕組みを確立しました。

 蓄積されたデータをポータルサイトで管理することで、フロック形状と出現生物の傾向に相関関係があることが明確に示されました。これにより、排水処理の状況を視覚的に理解することが可能となり、現場での観察精度が飛躍的に向上しました。


観察結果が導いた現場の自信

 毎日巡回し、処理状況と観察結果が結びつくことを理解した現場スタッフは、次第に大きな自信を持つようになりました。観察や測定が単なる作業ではなく、排水処理を最適化するための科学的な基盤であることを実感したのです。


次回予告:負荷を数値で示す鍵、微生物活性測定

 今回ご紹介した顕微鏡観察の手法が処理状況の可視化に貢献した一方で、負荷の具体的な把握には数値データが不可欠です。次回は、負荷状況を数値化する微生物活性測定に焦点を当て、その役割と結果が排水処理に与えた影響を詳しくお伝えします。



2024年12月2日月曜日

第3回 なぜ間欠運転が必要だったのか:そのプロセスと思考の記録

課題から見えた核心

私に課された課題は次の4つでした。
    1. 薬剤コストの削減
    2. 担当者教育
    3. 余剰汚泥の削減
    4. 乾燥汚泥の窒素比率向上
 これらの課題を達成するためには、まず「生物処理の正常化」が必要不可欠であると考えました。特に薬剤コスト削減は、三次処理(凝集沈殿処理工程)で多くの薬剤が使われていることが原因であり、その負担を軽減するには二次処理、つまり「生物処理」の段階で結果を出すことが鍵となりました。

「透視度」測定は無し?

 現場を視察すると、沈殿槽には常にSS(浮遊物質)が大量に浮遊しており、処理水の透明度が低い状態が確認できました。驚いたことに、現場では「透視度」を測定する習慣がありませんでした。技術部が所管していたころからの名残で、凝集沈殿処理で薬剤を投じて処理水を清澄化すれば問題ない、という考え方が透けて見えました。
 私は、「汚泥の解体」が原因でSSが浮上していると判断しました。この現象は、低負荷状態で過剰に酸素を供給し続けることで発生します。そのことを早期にF課長に理解してもらうため、科学的な証明が必要だと考えました。

科学的アプローチ:観察と測定

「汚泥の解体」を証明するために、以下の2つの手法を継続的に行いました。
顕微鏡観察
フロックの形状や色合いを観察し、栄養不足によるフロックの劣化(小型化や色の薄さ)を確認しました。
微生物活性測定
栄養がある場合には呼吸速度が速くなり、逆に栄養が不足すると遅くなるという理論を基に、曝気槽終端部(沈殿槽流入口付近)の「負荷」を測定しました。

  これらのデータをクラウドで管理し、顕微鏡画像と測定結果を日々確認しました。そして、F課長にこれらのデータを共有し、議論を重ねることで「生物処理は明らかに低負荷状態にある」という共通認識を築くことができました。


間欠運転の提案と成果

 汚泥の解体を防ぐには、酸素供給の過剰を避ける必要がありました。そこで私は「間欠運転」を提案しました。この提案は、排水処理現場に根強く残る「DO神話」(酸素を多く供給すれば問題は解決するという固定観念)を覆すものであり、大きな恐怖心を伴うものでした。
 しかし、観察と測定を徹底すれば問題が起きないことをF課長とH工場長に説明し、理解してもらうことができました。
 彼らはリスクを抑えながら少しずつ運用を開始し、測定や観察を通じて成果を確認しました。その結果、以下の改善が見られるようになりました。
    • SSの大幅な減少
    • 薬剤使用量の削減
    • 余剰汚泥の発生量減少と乾燥汚泥の窒素比率向上
 最終的には「70分停止、5分運転」という非常に効率的な間欠運転が可能となり、運用効率が劇的に向上しました。

フロックの変化がすべてを変えた

フロックの形状の変化は、間欠運転導入後の最大の成果の一つです。栄養不足だったフロックは質が向上し、形状が大きくなり、色合いも濃く変化しました。この変化によりコスト削減だけでなく、汚泥処理後に肥料として販売される乾燥汚泥の品質も向上し、良質な肥料として評価されるまでになりました。

2019年 コンサル開始前 最終曝気槽出口付近

2024年11月 コンサル後 最終曝気槽出口付近

 




次回予告

 次回は、「なぜ間欠運転が必要なのか」をさらに深掘りし、その理論的な背景と現場でのデータを交えて解説します。読者の皆様にとっても、「間欠運転」の効果とその可能性を理解いただける内容となる予定です。お楽しみに!