2024年11月26日火曜日

第2回:現場改革と具体的な改善策

 新たなスタート:責任の移管と現場の変化

 2019年10月、私は再びコンサルタントとしてこのプロジェクトに関わることになりました。このとき、排水処理設備の責任は技術部門から生産部門へと移管され、新たにF係長が担当責任者に任命されました。

 F係長は排水処理の専門知識こそありませんでしたが、この重要な役割に前向きな意欲を示し、改善に向けて積極的に取り組みました。しかし、現場には技術部が所管していた頃からの古参従業員たちが存在しており、F係長が主導する体制への移行は簡単ではありませんでした。中でも最古参の社員は、私が指摘している「低負荷状態にある。」という認識に賛同することを良しとせず、これまでのやり方にこだわる姿勢を見せていました。F係長は、古参のこの社員の考え方に疑問を持ちながらも、維持管理法を変えることまではできないでいました。

 


具体的な改善策の導入

こうした状況の中、私はF係長を支援しながら、現場改革を進めるための具体的な改善策を導入しました。

 

  1. 顕微鏡観察アプリとクラウド連携の活用

    • コンサルを開始するのとほぼ同時期に、私は自作の「顕微鏡観察アプリ」を提供しました。このアプリは、顕微鏡で観察の結果を自動でグラフしビジュアル化、クラウドに保存する仕組みを備えています。
    • また、当初はカメラを貸与することで、顕微鏡観察データを効率的に収集しました。これらのデータは、Google Apps Scriptを使ってスプレッドシートに反映され、さらにLooker Studioで可視化できるようにしました。
    • F係長が測定・観察したこの結果や画像を私はこの仕組みを通じて毎日確認し、チャットや電話を通じて具体的なアドバイスを行いました。この対話を通じ、F係長と私の間で「生物処理は明らかに低負荷状態にある。」という共通認識を築くことができました。










               


  1. 送風配管の更新とターボブロワーの運用課題

    • 再契約時点で、現場では送風配管の大規模な更新が進行しており、ターボブロワーの導入が完了していました。ターボブロワーは基本的に間欠運転が可能ですが、頻度の問題があり、頻繁な停止運転は推奨されていませんでした。
    • この飲料メーカーの場合、1時間に1度の停止が必要でしたので、曝気槽全体の効率と機器故障のリスクを考慮し、配管に自動弁を取り付ける方法を提案しました。この自動弁により、一部の曝気槽に対してのみ間欠運転を行うことが可能となりました。
  2. H工場長との連携

    • F係長がこの重要な決断を下せた背景には、工場全体を統括するH工場長の存在が大きく影響しました。
    • H工場長は私のコンサルティングセッションにほぼ毎回参加し、F係長と理論や考え方を共有。間欠運転の導入を支える強力な後ろ盾となりました。


間欠運転導入の決定とその意義

 最古参の社員が最後まで反対する中、F係長が間欠運転を導入する決断を下したことは、その後の排水処理プロセスにおける大きな転換点となりました。この決定は、ターボブロワーの頻度の課題を解決する「配管に自動弁を取り付ける」という柔軟なアプローチによって実現されました。さらに、クラウドで管理されたデータに基づく分析と改善が、このプロセスの根拠を支える重要な役割を果たしました。

 

2024年11月23日土曜日

第1回 ある飲料メーカーでのコンサル業務の話

 

果実加工業界の裏で高まる排水処理のコスト問題

果実加工業界は、美味しい果実製品を消費者に届ける一方で、製造過程で大量の排水が発生します。この排水処理にかかるコストは見えにくい部分でありながら、経営に大きな影響を与えます。

某飲料メーカー㈱も例外ではありませんでした。


 同社では、排水処理に毎年高額なコストを要しており、経営陣とくに生産を統括するO常務はこの問題を大きな課題として認識していました。

 しかし、排水処理を長年管理してきた技術部門は、その自負からか「自分たちの運転に間違いはない」という姿勢を崩しませんでした。そのため、排水処理の現状を「高負荷運転」と誤認し、問題の本質に目を向けることができませんでした。この結果、改善活動は停滞したままとなりました。



コスト問題の原因を解明する調査開始

O常務の強い指示のもと、排水処理コストの根本原因を解明するための調査を開始するため、これまでこの工場と何の関係もなかった私が任命され、調査を開始することになりました。

この調査では、以下の2つの方法が用いられました:

  1. 顕微鏡観察
    活性汚泥のフロック(微生物の塊)の形成状態を観察し、処理プロセスの問題点を特定。

  2. 微生物活性測定
    微生物の呼吸速度を測定し、処理能力を定量的に評価。

 調査の結果、処理が「高負荷」ではなく、むしろ「低負荷」で運転されていることが判明しました。これは、多くの人が予想しなかった事実であり、当時の運転管理の盲点を浮き彫りにしました。





初期提案の拒否と再挑戦の道筋

 調査を基に改善提案が行われましたが、技術部門は「高負荷」という誤解を基にこれを拒否し、契約は途中で打ち切られてしまいました。

 しかし、経営陣の交代により、排水処理設備の責任が技術部門から生産部門へ移管され、新しい現場責任者が配置されました。この変革が新たなスタートのきっかけとなり、コンサルタントとの再契約が実現しました。


次回予告:現場改革と具体的な改善策

次回は、新たなスタートを切ったプロジェクトがどのように進化し、どのような具体的な改善策が導入されたかをご紹介します。排水処理における課題解決の道のりをお楽しみに!